大切なものは

第 4 話


乱暴に剥ぎ取られた毛布。
本来ならその下にいるのはルルーシュのはずだが、残念ながらそこにいたのは、いや、あったのは布団を丸めて作った人形だった。ああ、だからベッドに乱れがなかったのかと納得したが、なら彼はどこにと辺りを見回した。
この部屋以外はすべて確認済みだ。
残っているのはここだけ。
彼のものと思われる携帯はベッドサイドに置かれており、開いてみるとビスマルクからの着信記録があった。
まさか、逃げたのだろうか。
あり得る。
ラウンズになるとこちらを油断させ、ここを抜け出したのだ。
そして、あの悪魔の力を使い誰にも気づかれることなく宮殿を出、いまごろ日本を目指しているのだろう。やられた。甘いのだ、皆。甘すぎるのだ。カードキー1つで開く施錠、犯罪者であるルルーシュは出入り自由。そんな環境にあって、彼が何もせずおとなしく捕まっているはずがないのだ。
逃げ出しただけならまだいいか。最悪、皇帝に刃を突き立てていた可能性が・・・いや、まて。どうしてそうしなかった?彼の目的はブリタニアの破壊だ。こんなに簡単に、内部に入り込めたのだから、あの悪魔の力を用いて皇帝暗殺を企てるのでは?いや、そもそも彼の記憶は消されているのだから、暗殺どころか皇帝に反旗を翻すこと自体頭にはないのか?黒の騎士団だった記憶もないなら、日本に行く理由もない。では、どうしてここにいない?
クローゼットや無駄に大きな収納も確認してみるがやはりいない。
豪華な部屋に惑わされていたが、彼の私物はあまりにも少なく、ラウンズの制服以外の洋服でさえまるで旅行で二・三泊する程度しかなかった。だから、荷物の陰に隠れて、ということはありえない。では、どこだ?ベッドにお粗末とはいえ偽物を用意したのだから、ここを逃げ出したか、どこかに隠れているかだと思うが・・・まさか窓の外、ベランダか?と思い、カーテンを開き外も確認するが特に何もない。
どこに消えた?
自分の意志で姿を消したのか?
あるいは、誰かが誘拐し偽装を?
偽装?
何のために?

以前、アッシュフォード学園のクラブハウスで彼と話したことが脳裏をよぎった。

「彼女なら、君たちを悪いようにはしないよ。保護してもらったほうがいいんじゃないのかな?ナナリーのためにも」

ユーフェミアの騎士となった頃、彼にそう持ち掛けた。
彼女は素晴らしい人で、とても優しく、亡くなったクロヴィスだけではなくルルーシュとナナリーのことも気にかけていた。クロヴィスとは違い、二人の死を確認していないから生きていると考え探している可能性があると思ったから。皇族である彼女なら、ルルーシュとナナリーを守るぐらい簡単だろう。

「もし、生存が知られてしまえば、政治の道具か陰謀の餌食か、母を殺した者たちの手にかかる可能性も高いだろうな」
「ユフィが守ってくれるよ」

そういった僕を、ルルーシュは呆れたような目で見た。

「お前は、バカか?俺はこの国で死を偽装する前まで皇子だったんだ。俺がユーフェミアの実兄だということを忘れていないか?」

ああそうだった、彼は皇子でナナリーも皇女だったと当たり前のことを思い出した。だからこそ、陰謀の餌食だと、皇族に生存を知られるわけにいかないのだと言っているのだ。でも、頭ではわかっていても、ルルーシュとナナリーが皇族なのだという実感がない。ユーフェミアとはあまりに違い過ぎるから。
彼女の周りにはたくさんの部下がいるが、ルルーシュとナナリーにはいなかった。SPは確かにいたが、ルルーシュを守るわけでもなく、監視しているようにしか見えなかった。ルルーシュには悪いが、やはり彼女とルルーシュは違うのだと思う。

「いいかスザク。もし俺たちを匿うような真似をユフィがすれば、彼女の立場だって危なくなる。俺たちの母は暗殺され、犯人は捕まっていないからな」

スザクに理解しやすいよう、言い方を変えた。
マリアンヌ皇妃を殺害した犯人がルルーシュたちを狙う可能性があること。邪魔なユフィも狙うかもしれないかもしれないこと。それだけは避けなければいけない。

「そうか、そうだね。でも、君なら彼女と連絡を取ってうまくやれると思うんだけどな」
「あきらめろスザク。俺たちは生き返るつもりなどない」

暗殺などもう御免だよ。
そう、彼は言っていた。

暗殺。
暗殺者がルルーシュを誘拐し、少しでも時間を稼ぐために毛布で?
あり得ない話ではない。
だって、この部屋にはカードキー1枚では入れてしまうのだから。そこをどうにか・・・以前ルルーシュが学園のエレベーターをいじった時のようにロックを解除する技術があれば。ここは厳重な警備がされていると思い込んでいた自分のように、過信しているスキをついて連れ出すぐらい簡単なのでは?暗殺者が内部のものなら余計に。
大変だ、ルルーシュが殺される。
そこまで思い至り、窓から離れ振り返り、そのとき室内の違和感に初めて気が付いた。

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